老年期の認知症について メンタルヘルスのページへ戻る

1.認知症老人の“もの忘れ”と正常な老化による“もの忘れ”
 認知症老人の“もの忘れ”と正常な老化による“もの忘れ”は物忘れの程度の差だけでなく、質が違うものです。正常な老化によるもの忘れが悪化しても、認知症とは別のものなのです。
●認知症老人では出来事のすべてを忘れ、正常老化では一部を忘れるのみ。
 たとえば、正常老化の物忘れでは「○○さんと会って話をしたが、何の話をしたか思い出せない。」「会った人の顔やどういう人であるかはおぼえているが、名前が出てこない。」等のことがあっても、後になって自分で思い出したり、人に言われて記憶の糸がつながります。認知症のものわすれは人と会って話したという出来事自体を忘れていて、人に言われても思い出せません。
●認知症老人では判断能力、見当識も障害される。
 見当識とは、自分が今どこにいて、今日は何年何月何日で、自分の周りにいる人は誰で、といったことが分かっているかどうかということ。一定以上の認知症になると、カレンダーを見ても年月日や季節が分かりません。自分がどこにいるのか分からなくなり、自宅のトイレの位置も分からず、家族の顔も分からなくなってしまいます。
●認知症老人では自分が物忘れをしているという自覚がない。
 認知症の人は、本人が自覚しているよりもはるかに激しいものわすれをしています。


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2.認知症の症状
●知能の障害(認知症の中核症状)
思考能力・計算力・記憶力の障害
見当識の障害
●感情障害
うつ状態 : 認知症の初期症状として“うつ状態”が出ることがあります。
感情失禁 : 些細な情緒的刺激に過剰な感情的反応を示すことをいいます。
多幸症 : 根拠のない内容の乏しい空虚な上機嫌。
●性格変化
 認知症になると抑制が欠如し、本来の気質がそのまま現われます。現れ方はその人の病前性格や生活史を色濃く反映しているようです。
●問題行動
 失禁・弄便・拒食・過食・異食・徘徊・多動・興奮・火の不始末 危険行為など。介護する人をいちばん困らせる症状のひとつです。
●幻覚と妄想
 幻覚としては幻視と幻聴が見られます。
 認知症老人では、被害妄想(物とられ妄想)や嫉妬妄想がよく見られます。老人の妄想的主張を頭ごなしに否定しても解決しないばかりか、かえって事態を悪化させるだけです。幻覚と妄想には薬がある程度効くので、専門の医療機関にかかることが大事です。
●せん妄
 軽い意識障害を背景にして錯覚、幻覚(特に幻視)、興奮をともなう状態をせん妄といいます。 認知症老人では、さまざまの原因でせん妄が起こりますが、複数の因子(身体的要因、心理的要因)が関与した例が多いです。入院による環境の変化も誘因になり得るし、薬剤の副作用でせん妄が引き起こされることも稀ではありません。


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3.認知症を引き起こす疾患
 数多くの病気が認知症を起こしますが、その代表格が、脳血管性認知症とアルツハイマー型認知症。この両者のの混合型も稀ではありません。
●アルツハイマー型認知症
 原因不明の脳の神経細胞の著しい脱落が特徴で、著明な大脳の萎縮がみられます。進行は緩徐で持続的で、麻痺や言語障害は比較的少ないです。このため徘徊や迷子といった介護上困る症状がアルツハイマー型ではよく見られます。
●脳血管性認知症
 脳梗塞や脳出血などで脳の血管が障害されて、その流域にある脳の組織が破壊されて起こる認知症です。脳卒中の発作がなくても、小さな脳梗塞が多数生じた(多発性脳梗塞)ために生じる場合もあります。高血圧や糖尿病、脳卒中の既往があることが多いです。
●認知症症状が治ることもある
 内分泌や代謝の異常などの身体疾患に伴って一見認知症のような症状が出ることがありますが、その場合は身体疾患が改善すれば認知症様症状も回復する場合が多いです。治療しないでほっておくと本当の認知症になってしまうので、早期発見早期治療が大事です。そのほか、高齢者では、ホルモン剤や鎮痛剤・風邪薬などをのんでいるとき、一見認知症のような症状が出ることがよくあります。これもすぐ薬を中止すれば元に戻ります。
 今までしっかりしていた人に急に認知症症状が出てきたときには、体の病気や飲んでいる薬による可能性がないか、一度検討してみる必要があります。「一見認知症に見えても治る病気もある」ということに注意が必要です。
●うつ病に伴う「偽認知症」
 高齢者のうつ病では集中力の障害・記憶力低下・判断力低下を来すことが多く、一見認知症に見えることがあります。専門家でも鑑別が困難な場合もありますが、しっかり見極めてうつ病の治療をすれば、うつ症状が改善し、認知症様の症状も消失します。


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4.認知症の治療と介護
●「よりよい状態」を目指す治療
 現在の医学では、失われた神経細胞を再生して病前の状態に戻すと言う意味での「治癒」は望めません。しかし、残された神経細胞を薬物によって賦活するとともに、リハビリテーション的な働きかけを辛抱強く何度も繰り返すことによって、生き残った神経ネットワークを活性化することは可能です。これによって知能の低下や見当識の障害をカバーして問題行動を軽減し、介護者にとっても本人にとってもより快適な生活が送れるようにする事も立派な「治療」なのです。
●認知症の重症度と、介護に困る度合いは必ずしも平行しない
 一般に、初期から中期の認知症の方が、徘徊、興奮、妄想、粗暴行為など介護をする側から見て困った症状が出やすく、患者さんご本人の苦痛も大きい場合が多いです。ところが一定以上認知症が進行すると、食事や排泄の介助など、日常生活上の介助を要する度合いは増えるものの、問題行動は減って患者さんご本人も気分的に安定し、介護者も気分的に楽になることがよくあります。
●認知症を予防することは出来るか
 認知症の原因として重要な脳血管性認知症は、高血圧や高脂血症、糖尿病をきちんとコントロールすることでかなり予防できると言われています。
 アルツハイマー型認知症に関しては、これまでの研究で、いろいろな説は出ていますが、残念ながら、決定的な予防法は今のところありません。
 その他、出来るだけ規則正しい生活をして必要な睡眠を取るとか、適度の運動と精神活動(頭を使う)などが予防に有効と言われています。
●認知症自体に対する薬物療法
 現在、脳代謝賦活剤や脳循環改善剤が発売されていますが、いずれも決定的な原因療法にはなり得ていません。それらを使用しても、認知症の進行をいくぶん抑制する程度の効果しかないのが実状です。
●認知症に伴う症状への対症療法
 決定的な原因療法がない以上、対症療法によって、認知症老人自身や介護者にとって困った症状を軽減することが重要になります。たとえば、興奮・幻覚妄想・不眠・せん妄といった症状に対しては、精神安定剤や睡眠導入剤やある種の抗うつ剤を使えばかなり症状を和らげることが出来ます。
 しかし、老人では薬物の代謝能力が低下しており、個人差も大きいため、少量の薬では効果がない一方、少し増やすと副作用が出現することが稀ではなく、薬の調整に難渋することもよくあります。薬を慎重に調整する必要があります。

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心療内科・神経科 明石クリニック
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